おばあちゃん、毎年楽しみにしている時期が来たね。
お父さんがまだ学生だった頃から、軽トラックに芋焼き釜を積んで、焼き芋の行商を行っていたおばあちゃん。
おばあちゃんが焼くお芋の甘〜い味は、他では味わったことのないくらいプロの腕前!
今日みたいな寒い冬の日には、決まって家のストーブでもさつまいもを焼いてくれた。
それが楽しみだった私は、まだかなぁまだかなぁと、ちょくちょく焼け具合を見に行く。
そんな私を見て、おばあちゃんは笑ってこう言っていた。
「ゆっくり待ってあげなさい。お芋はね、じーっくり焼くと甘くおいしくなるんだよ」
古い記憶の中の言葉がよみがえり、懐かしい気持ちでいっぱいになった。
たまらなくなって、週末、田舎に車を走らせた。
連絡もせず訪れた私に驚きながらも、満面の笑みで出迎えてくれたおばあちゃん。
昔のようにこたつでお茶を飲む。
「そろそろかな」と、おばあちゃんがふいに腰をあげる。
どうしたの、と後をついていくと、おばあちゃんはストーブからこんがり焼けたお芋を取り出していた。
かごいっぱいに盛ったお芋を抱えてこたつに戻り、さぁ食べようと私を手招いている。
・・・焼き芋の話は全然してないのに、どうして知ってるんだろ・・・
子どもの頃と変わらない光景に、私は驚きと懐かしさでボーっと立ち尽くしていた。
あちち、と手のひらでお芋を転がしながら、おばあちゃんはゆっくり話してくれた。
「毎年ちゃんと焼いてるんだよ。これ、好きだったでしょ。
忙しいとは思うけど、あんたが楽しみにしてたこの時期くらいは、食べに帰っておいで。
いつでも待ってるから。ばあちゃんだって、会いたいんだからね」
はい、と手渡されたお芋を割ると、甘い香りと湯気がふんわりと立ちのぼった。
「わぁ!」と喜ぶ私を見て、おばあちゃんはいつも笑っていたよね。いま目の前に、あの頃と同じ笑顔がある。
変わってないよね、おばあちゃん。
皮の焦げた香ばしい匂いにつつまれて、昔のできごとが次々とよみがえる。
気付くと、お芋を食べながら思い出話に花を咲かせ、忙しい時間のことなんてすっかり忘れていた。
このお芋の味と香りが、私を笑顔にしてくれた。
「なんだかおばあちゃんのニコニコ顔が移っちゃったみたいだよ」
変わらない味は、大好きなおばあちゃんのぬくもり。
来年も再来年も、ずーっと食べたいな。これからもよろしくね、おばあちゃん
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